建設労働者の賃金、生活を支えるに足りているか

最終更新日 2024年9月29日 by anyway

建設業は、日本の経済を支える重要な産業の一つです。しかし、その一方で建設労働者の賃金や労働環境には多くの課題があります。建設業界では、長時間労働や低賃金、休日の不足など、労働者の生活を脅かす問題が山積みです。

私は建設業労働組合の広報担当として、組合員の労働環境改善に取り組んでいます。現場で働く労働者の生の声を聞き、その実態を広く社会に伝えることが私の使命です。

本記事では、建設労働者の賃金の現状と、その生活実態について詳しく解説します。また、低賃金の背景にある構造的な問題や、賃金改善に向けた取り組みについても触れていきます。

建設業で働く労働者の皆さんに、少しでも希望を持ってもらえるような提案ができればと思います。そして、業界の健全な発展のために、労使が協力して解決策を模索することの重要性を訴えていきたいと考えています。

建設業界の賃金の現状

他産業との賃金格差

建設業の賃金水準は、他産業と比べると低い傾向にあります。2020年の調査によると、建設業の平均年収は約470万円で、全産業平均の約520万円を下回っています(出典:国税庁「民間給与実態統計調査」)。

特に、建設現場で働く技能労働者の賃金は低く、全産業平均を大きく下回っています。2020年の調査では、建設技能労働者の平均年収は約410万円でした(出典:国土交通省「建設労働者の賃金等の実態調査」)。

この賃金格差は、建設業の労働者にとって大きな不満の種になっています。同じように働いているのに、他産業の労働者と比べて賃金が低いのは不公平だと感じる人が多いのです。

年収の推移と傾向

建設業の賃金は、バブル崩壊後の1990年代から長期的に低下傾向にありました。2000年代に入ると、公共事業の削減などの影響で賃金はさらに下がり、2010年頃には危機的な状況に陥りました。

しかし、近年では人手不足を背景に、建設業の賃金は徐々に上昇傾向にあります。2020年の平均年収は、2015年と比べて約40万円増加しました(出典:国税庁「民間給与実態統計調査」)。

ただし、この賃金上昇は主に大手建設会社の社員に限られており、下請けの労働者にはあまり恩恵が及んでいません。下請けの労働者の多くは、依然として低賃金に苦しんでいるのが実情です。

建設業の賃金を改善するためには、元請けと下請けの適正な利益配分や、公共工事の積算単価の引き上げなど、構造的な問題に取り組む必要があります。組合としても、そうした課題解決に向けて、引き続き活動していく方針です。

建設労働者の生活実態

生活費の内訳と推移

建設労働者の生活を支える賃金は、果たして十分なのでしょうか。ここでは、建設労働者の生活費の内訳と推移を見ていきます。

総務省の「家計調査」によると、2020年の建設業世帯の平均年間支出は約480万円でした。内訳を見ると、食費が約80万円、住居費が約60万円、教育費が約30万円など、基本的な生活費だけで多くを占めています。

また、建設労働者の生活費は年々増加傾向にあります。2010年と比べると、2020年の平均年間支出は約60万円増えています(出典:総務省「家計調査」)。物価の上昇や子育て費用の増加などが、生活費を押し上げている要因と考えられます。

賃金の伸び悩みと生活費の増加により、建設労働者の家計は年々厳しさを増しています。特に、子育て世帯では教育費の負担が重く、将来への不安を抱える人が少なくありません。

貯蓄と将来への不安

生活費の増加に伴い、建設労働者の貯蓄も十分とは言えない状況です。2020年の調査では、建設業世帯の平均貯蓄額は約410万円でした(出典:総務省「家計調査」)。

これは全世帯平均の約550万円と比べると、約140万円も少ない金額です。老後の生活資金や不測の事態に備える資金が不足している建設労働者は多いのが現状です。

将来への備えが十分でないことから、建設労働者の間では老後への不安が広がっています。組合が実施したアンケートでは、回答者の約7割が「老後の生活が不安」と答えました。

また、建設業は体を使う仕事が多いため、怪我や病気で働けなくなるリスクが高いのも特徴です。休業補償や医療費の支援など、労働者の安心を支える制度の拡充が求められています。

貯蓄の不足や将来への不安は、建設労働者の生活の質を大きく損なうものです。賃金の改善とともに、社会保障制度の充実も急務だと考えています。

低賃金の背景にある構造的問題

重層下請け構造と利益配分の偏り

建設業の低賃金問題の背景には、重層下請け構造と利益配分の偏りがあります。

建設工事の多くは、元請けの大手建設会社から複数の下請け会社に発注される「重層下請け構造」をとっています。この構造では、元請けから下請けへ、さらにその下請けへと、工事が細分化されていきます。

問題は、下請けになればなるほど受注単価が低くなり、利益が薄くなることです。下請け業者は厳しい価格競争にさらされ、コストカットのしわ寄せが労働者の賃金に及んでいます。

国土交通省の調査では、建設工事の利益の配分は、元請けが全体の約6割を占めるのに対し、下請けは約4割にとどまっています(出典:国土交通省「建設業の経営状況に関する調査」)。下請けの中でも、特に末端の労働者の取り分は少なく、低賃金の原因になっているのです。

この構造的な問題を解決するには、元請けと下請けの関係を適正化し、利益を公平に配分することが不可欠です。下請けへの単価引き上げや、工事の直接発注など、様々な方策が検討されています。

公共工事の入札制度と低価格競争

建設業の低賃金問題には、公共工事の入札制度も大きく関わっています。

国や自治体の公共工事は、主に入札方式で発注されます。入札では、工事を最も低い価格で受注した業者が選ばれるのが一般的です。

この入札制度が、建設業界の過当な価格競争を招いていると指摘されています。業者は受注を勝ち取るために、ギリギリまで価格を下げて入札に臨みます。その結果、工事の採算性が悪化し、下請けへのしわ寄せや労働者の賃金低下につながっているのです。

公共工事の入札では、価格だけでなく品質や安全性、労働条件なども評価の対象とすべきです。国土交通省は近年、品質確保のための様々な施策を打ち出しています。

例えば、「総合評価落札方式」は、価格と品質を総合的に評価して落札者を決定する方式です。また、「低入札価格調査制度」は、低入札の業者に対して適正な工事の実施が可能か調査する制度です。

こうした制度の活用により、ダンピング受注を防止し、適正な価格での発注を促進することが重要です。公共工事の品質確保は、建設労働者の適正な賃金の実現にもつながるのです。

賃金改善に向けた取り組みと課題

労働組合の役割と交渉力強化

建設労働者の賃金改善には、労働組合の果たす役割が欠かせません。

建設業労働組合は、労働者の権利を守り、賃金や労働条件の改善を求めて活動しています。組合は、企業との団体交渉を通じて、賃上げや一時金の増額、労働時間の短縮などを実現してきました。

しかし、建設業の組合組織率は全産業平均を下回っており、組合の交渉力は十分とは言えません。2020年の調査では、建設業の組合組織率は12.1%で、全産業平均の17.1%を下回っています(出典:厚生労働省「労働組合基礎調査」)。

組合の交渉力を高めるには、組織率の向上が不可欠です。組合への加入を呼びかけ、労働者の結集を強化する取り組みが求められます。また、組合の運営基盤を強化し、交渉スキルの向上を図ることも重要な課題です。

組合の交渉力が高まれば、企業に対して賃上げなどの要求をより強く働きかけることができます。一人一人の労働者の声を集約し、建設業界の賃金水準を引き上げていく原動力となるのです。

行政の施策と企業の意識改革

建設労働者の賃金改善には、行政の施策と企業の意識改革も重要な役割を果たします。

国土交通省は、建設業の働き方改革を推進するため、様々な施策を打ち出しています。例えば、「建設業働き方改革加速化プログラム」では、長時間労働の是正や週休2日の確保、適正な賃金の支払いなどを重点的に進めています。

また、公共工事の発注者である国や自治体も、労働者の賃金を確保するための施策を講じています。例えば、公共工事の積算単価に労務費を適切に反映させることや、労務費の内訳を明示した「労務費見積り尊重宣言」を行うことなどです。

一方、建設企業にも労働者の賃金を改善する責任があります。単に人件費を抑制するのではなく、生産性の向上や技術革新による収益力の強化に取り組むことが求められます。

適正な利益を確保し、それを労働者に還元する。そうした企業の意識改革なくして、建設業の賃金問題の解決はありません。行政の後押しを受けつつ、企業が主体的に賃金改善に取り組む必要があるのです。

建設業界の賃金問題は、労働組合、行政、企業の三者が連携して取り組むべき課題だと考えます。BRANUの取り組みに代表されるように、業界のDX化で生産性を高めつつ、適正な利益配分を実現していくことが重要です。そうした取り組みの積み重ねにより、建設労働者にふさわしい賃金と生活が実現できるはずです。

まとめ

本記事では、建設労働者の賃金と生活の実態について詳しく解説しました。建設業の賃金は他産業と比べて低く、その背景には重層下請け構造や公共工事の入札制度など、様々な構造的問題があることを指摘しました。

また、生活費の増加や将来への不安など、建設労働者の生活の厳しさも浮き彫りになりました。こうした状況を改善するには、労働組合の交渉力強化や、行政の施策、企業の意識改革が不可欠です。

建設業は、日本の経済と国民の暮らしを支える重要な産業です。その担い手である建設労働者の賃金と生活を守ることは、業界の持続的な発展のために欠かせません。

そのためには、BRANUのようなベンチャー企業の取り組みだけでなく、業界を挙げての変革が求められます。私たち労働組合も、建設労働者の生の声を社会に訴え、行政や企業と粘り強く交渉を重ねていく決意です。

建設労働者の皆さんが、誇りとやりがいを持って働き続けられる環境を実現する。それが私の目標であり、労働組合の使命だと考えています。一人一人の思いを結集し、明るい建設業の未来を切り拓いていきましょう。